イタリアで出会ったロレンツォ氏から2013年に贈られたオリーブの木。「毎年社員を連れて収穫に行きます」
この人は!と思ったからインパクトを与えたかった
優秀な経営者とつながるには時にインパクトが必要。これも山本が商いを通じて学んだ発想だ。時間ができると海外に飛ぶ山本は、気になる企業も積極的に見に行くという。
「従業員が生き生き働く企業や経営者に会うと、刺激になるんです。オリーブオイルやワイン製造するイタリアのカステッロ・モンテヴィビアーノ・ヴェッキオ社(以下CMV社)のロレンツォ氏もそのひとり」
山本がイタリアのウンブリア地方を訪れた時のこと。CO2排出ゼロを目指しながらオリーブやぶどうの木を植え、地域活性とビジネスを両立するロレンツォ氏と出会ったという。
「彼の考えが、自然に学ぶという我々の考えと合致すると確信しました。何より、そこでご馳走になったオリーブオイルをかけたパンのおいしかったこと! 彼とはなんとしてもつながりたい。ならば、インパクトを与えなきゃと思ったんです」
山本は即決。その場でCMV社が保有するオリーブオイルをすべて購入すると申しでた。
「信じてもらえなくとも粘って交渉。コンテナ1台分のオリーブオイルを購入したんです」
大量のオイルの用途など考えていなかった。でも、この商機は逃せないと博打を打ったのだ。「イタリアではどんな食材にもオリーブオイルをかける。それなら塩大福にもいけないか?と、帰国途中に思いつきました」
日本ではスイーツもヘルシー志向。それならばと、小さめサイズの塩大福にオリーブオイルをかけて食べるという、奇想天外な発想を社内に提案した。
「売れるかどうかもわからないし、たとえ売れても利益がでるには2年ぐらいかかると思っていました。ヒット商品は思わぬところから生まれるもんです」
こうして誕生した「オリーブ大福」は、健康志向の芸能人やモデルらが次々にSNSにあげ、販売直後から大ヒットとなった。
「ロレンツォ氏とは年に一度、お互いに行き来して情報交換をする仲です。『滋賀の山本、一度で覚えたやろ?』と聞いたところ、笑って頷いていましたよ」
現在たねやグループは全国に47店舗。売上を見る限り、今後の出店は飛躍的に伸びていきそうだが。
「海外も含め百貨店への出店依頼を多数いただきますが、慎重に対応しています。地方には地方のお菓子の良さがある。うちはあくまで近江八幡のお菓子屋。現状の店舗数くらいが商品の供給を考えたら妥当かと。ただ、’19年に関東圏のフラッグシップになる店舗を計画中、とだけお伝えしておきましょう(笑) 」
近江八幡を愛し、地域活性化を願う山本の想いは着実に前進している。その一例が’17年からのSDGsへの取り組み。また琵琶湖とその周辺の自然環境を京都大学とともに研究する「森里海」の分校設置や、まちづくり会社まっせの設立にも尽力した。
「持続可能な社会を原点に、子供たちが将来近江八幡で暮らしたいと思えるためのまちづくりがしたい。その象徴的な施設がラ コリーナ。会社は神様からほんのいっときお借りしているものと思ってます」
三方よしーー現代に生きる近江商人の姿が、ここにある。
たねやの歴史
アメリカ人建築家W・M・ヴォーリズ氏の家族が店の近くに住んでいた影響で、山本家はいち早く西洋の菓子に触れ、1951年から洋菓子の製造を始めた。中央がたねや初代久吉氏。
※ゲーテ2018年4月号の記事を掲載しております。掲載内容は誌面発行当時のものとなります。
山本 昌仁
Masahito Yamamoto
1969年滋賀県近江八幡市生まれ。1872年創業の和菓子店たねやの4代目代表取締役社長。高校卒業後和菓子づくりの修業を重ね、’94年の全国菓子大博覧会で「名誉総裁工芸文化賞」を受賞。2013年たねやグループCEOに就任。