異業種からの転身 オークションハウス代表に
サザビーズ、クリスティーズと並ぶ世界三大オークションハウスの一つ、フィリップス・オークショニアズが東京オフィスを設立したのは2016年のこと。立ち上げのための人材を日本で探していた当時のCEOが、コレクターから「適任」と紹介されたのが服部今日子だった。
「当時はヘッドハンターとして仕事をしていたので、『畑違い』ではあったんですが、フィリップスの本社があるロンドンに呼ばれて話をするうち、トントン拍子で代表を引き受けることに」
もともとアートは大好きで、時間を見つけては美術館やギャラリーへ足を運んでいた。現代アート作品を購入するコレクターとしても、その時点でキャリアは10年以上。ギャラリストやコレクター、アーティストらの知り合いも多くなじみある世界だったゆえ、臆せず飛び込んだ。
「フィリップスが扱う現代アートには、ポテンシャルもマーケットもしっかりあると実感していたので、心配はなかったですね。スタートアップをやってみたい気持ちもありましたし、当時のCEOのエドワード・ドルマンが日本のマーケットに対して理解があったのも大きかったです」
服部さんが舵をとって出航したフィリップス東京オフィスは順調に滑りだし、この5年間ずっと成長を続けた。’20年にはフィリップス日本を通じた売上が過去最高を記録。コロナ禍をものともしない伸びっぷり。どう辣腕を振るってきたのか。
「フィリップスのことは誰も知らない状態でのスタートだったので、当初は手探りでできることは何でもやっていました。幸いグローバルのサポートもあり、一生懸命やっていたら結果がついてきました。実際のところ成長の一番の理由は、私個人の力というより世の中の流れと合ったからだと思います。日本のコンテンポラリーアートのマーケットは考えていた以上に深く、素晴らしいコレクターが多数いました。また、ここ数年、日本だけでなくアジア全体で急速に伸張していたので、いいタイミングで東京オフィスを立ち上げられたのが一番の要因といえます。フィリップスは老舗のオークションハウスで幅広い活動をしてきましたが、近年はコンテンポラリーアートにフォーカスしており、デジタルのプラットフォームも含めビジネスの組み立てがマーケットにあっていると思います。オフィスも有楽町から六本木に移転しました。ここは森美術館やトップギャラリーが軒を連ねる、現代アートの一大拠点ですから」
Art Priceのレポートによると、世界のコンテンポラリーアートのオークションマーケットは、’00年から今日までで約20倍に膨れ上がっている。オークションで扱われる美術展のうち、現代アートの占める割合は5割を超える。とりわけアジア地域での伸びは顕著であり、3割以上はアジアからの売上が占める。’16年時点で日本に拠点を置いたフィリップスの判断は、時宜にかなったものだったといえる。